【2021大学入学共通テスト】PMD医学部専門予備校のプロ講師である中村智先生が「国語」を講評です。

【2021大学入学共通テスト】PMD医学部専門予備校のプロ講師である中村智先生が「国語」を講評です。

共通テスト全体の概要

国語は当初、センター試験から共通テストに移行するにあたって、かつてない仕様変更がなされることが予告されていた。しかし実用的文章や記述式の導入が見送られることが昨年1月に発表され、ならばどのような内容・形式になるのかを具体的に示す機会がコロナ感染の影響で失われた。その結果大学受験業界が模試などを通じて様々な予想問題を出し、受験生ならびに指導者は幅広く準備しなければならない混沌とした状況が続いた。

 

しかし結果を言えば、本試はマイナーチェンジに止まった。特に「テキストについて生徒同士が話し合った内容の正誤を判別する」問題は一切なかった。たしかに、複数の文章を読み合わせる設問が現代文2題、古典2題のいずれにもあり、試行テストで示された形式の踏襲が一応行われてはいた。

 

しかしそれに順応すべくゲームのルールを追究するような学習よりは、1人の筆者・作者による文章・作品の文脈をしっかりと追う練習に時間を割いた方が高得点できる作りになっていた。
受験生に本格的な読解力を求めるならそれが本来的なあり方なので、この作問の姿勢は正しかったと言える。この傾向が今後も続くことが望ましい。

 

令和3年度 共通テスト(1月30日・31日)の正解

 

共通テスト国語┃第1問の考察

香川雅信『江戸の妖怪革命』からの出題で、本文の字数は約3300字。昨年度(センター)とほぼ同量。

内容は「妖怪」の歴史的変遷を追ったもの。センターの評論は96年以降、対象を変えながらも一貫して近代批判の文章が採られていたが、共通テストの嚆矢に文化論を持ってきた。事前の予想では社会学系の文章が取り上げたものが多く、また2つの評論の読みつなぎもトレンドになっていたが、本試は王道を貫いた格好になった。

問1 漢字問題 選択肢が従来の5つから4つに減った。これは第1問全体の本文・資料・選択肢の読む量が増えたことを踏まえて、負担軽減のために行った変更なのではないか。
問2〜4 読解問題 センター以来伝統の、傍線部の具体内容や理由を問う読解問題である。それぞれの設問ごとの読みの範囲の分担を見分けて、その範囲の要約的内容を把握した上で答えていけばよい。
問5 新傾向の設問 「共通テストらしさ」を出すための新傾向の設問。芥川龍之介「歯車」との読みつなぎが問われている。問2~4で促された読解をベースに、その文脈的延長線上で解答できるように作られている。難化という評もあるようだが、本文が読めていれば解ける。ただ、(ⅰ)~(ⅲ)に分かれ解答の回数が多いので、時間をかけ過ぎないよう注意する必要があった。

 

共通テスト国語┃第2問の考察

加能作次郎「羽織と時計」が出題された。3600字程度。昨年のセンター小説が4600字程度だったのに比して少なくなっている。

評論の情報処理量の増加を踏まえ、現代文の枠内でバランスをとった結果かもしれない。制限時間内に解き切れるよう配慮するといった制約が出題者にあることは、受験生も意識しておくことは、時間や労力の配分を考える際のヒントをくれる。

センター時代の第2問と同様に小説が採られた。模試などでは詩歌や随想への変更を予想した問題が多かったが、「元の鞘に収まった」印象である。ただし次年度もこれが踏襲されるかどうかは様子を見る必要があるだろう。

採られた作品は大正期の心境小説である。センター時代も昭和初期以前の作品の出題率は高かったが、これは受験生にとって言葉遣いや時代背景がピンと来にくいものを選ぶことによって、感性ベースのひらめきよりも知性に基づく想像力で読み解いてほしいという意図に基づくものであろう。したがって受験生はこのタイプに対して、読書好きだからと気楽に構えたり、食わず嫌いしたりせずに、練習を通じて馴染んでおく必要がある。

問1 語句問題 センター小説と同じである。
問2〜5 読解問題 いずれも人物の心理を追わせるもので、小説問題の設問としてオーソドックスなもの。基本に忠実な読解・解答が求められる。
問6 新傾向の設問 従来表現(と内容)の特徴を問うものが多かったが、それが姿を消し、かわって小説に対する批評を読みつなぐ設問が登場した。第1問と同様の仕様変更がなされている。(ⅱ)「評者とは異なる見解を提示した内容」を選ばせる問いを「発展的思考力を求める」ものと評する向きもあるようだが、これは要するに「合致しないものを選べ」ということと同じなので、新奇な問いではない。
ちなみに「合致しないもの・適切でないもの」を選ばせる設問が、センター国語の最後の数年では増加傾向にあったが、共通テストでは先述の第2問・問6(ⅱ)以外にはなかった。

 

共通テスト国語┃第3問の考察

『栄花物語』からの出題。平安時代のもので、歴史物語は久しぶりの登場だった。本文の字数は約900字。昨年度が約1300字で前年比約400字減だったが、今回はさらに約400字減となった。

では簡単になったかと言えばそうではなく、むしろ難化したと言うべきである。なぜなら、設問1つ1つの判断に手間がかかるように設計されており、しかも解答数は少ないから1問ずつの配点が大きい。つまり設問1つの出来不出来で得点が大きく変わる、受験生にとっては気の抜けない大問になっている。

問1 語意を問うもの 形式は従来通りで、内容の難度も標準的だった。
問2〜4 読解問題 読解だが、特に問3が、チェックすべきことが多い作りになっていて手ごわい。
問5 試行テストを踏襲した/しないで評価が割れているようだが、いずれにせよ、和歌3首に対する正確な理解と比較検討の力を要する、その意味でこれまた手ごわい設問となっている。

なお、受験生が苦手とするもう1つの要素に敬語があるが、今回はこれを直接問う設問はなかった。しかし今回の本文を読みこなすにはこれが必要で、また今年出なかったからこそ来年は問うてくる可能性があるので、準備をしておくことを勧める。

 

共通テスト国語┃第4問の考察

【文章Ⅰ】は欧陽脩の五言古詩が出題された。五言古詩の登場は昨年のセンター漢文から2年連続ということになる。【文章Ⅱ】は『韓非子』からの出題。

2つの文章の比較検討はセンター国語にない、共通テスト国語を特徴づけるものと言える。しかし一部の模試や予想問題に見られたような、記号的・機械的に読み合わせていく作りではなく、文脈や内容を照合する有機的な読みつなぎを求めるものになっている。漢文では問3、6についてそれが言える。なお問3は押韻の知識も必要とされる。

問1、2、4、5は語句、文法(句形)の知識が身についているかを問うもの。基本に忠実な解答が求められている。
昨年のセンター漢文では内容の一部を正しく描いたイラストを選択させる設問があり、共通テストの新傾向を思わせるものと話題になったが、漢文のみならずいずれの大問でもそのような設問は見られなかった。コロナ禍による社会情勢が受験生にも様々な制約を強いた年度だったからであろう、実験的な出題は行われず、手堅い作問に徹してという印象だった。

執筆者


 

中村 智


山口大学語学文学科、九州大学文学部修士課程。大手予備校を経てPMD医学部専門予備校講師。専門は明治、大正期の近代小説。国語だけでなく小論文や自己推薦書などの指導も定評がある。

 

令和3年度 共通テスト(1月16日・17日)の正解

令和3年度 共通テスト(1月30日・31日)の正解

 

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