【地域医療を考える】石川県奥能登地方の現状#3 人口減少・少子高齢化・教育格差・高校魅力化プロジェクト

はじめに

第3回は奥能登(能登半島にある珠洲市、輪島市、穴水町、能登町の二市二町の総称)が抱える様々な課題について解説していきます。今回は人口減少、少子高齢化、教育格差の3つのトピックを取り上げ、解説したいと思います。

人口減少

人口問題については第1回でも触れました。

奥能登は急激に人口が減少している地域です。1950年には15万7860人だった人口が、令和5年には5万5566人まで減少しています。(※)おおよそ70年で70%減です。今後さらに人口減が加速していくと考えられています。日本では少子化が進んでことを考えると、今現在、奥能登で起きていることは、今後日本各地で起きることだと言えます。
※いしかわ創生人口ビジョン(改訂版) 参考資料
いしかわ統計指標ランド 石川県の人口と世帯

第1回の記事から引用

ただしこれは震災前の調査です。震災後はさらに人口減少が深刻化しています。石川県の人口統計(注1)によると、令和6年1月1日の奥能登二市二町の人口が55213人であるのに対し、令和6年5月1日の人口は52613人になっています。震災からのわずか4ヶ月で5%弱、2600人の減少幅です。

 

令和5年度12月に公表された国立社会保障・人口問題研究所推計(注2)によれば、奥能登の人口は2020年には61114人、2050年には25739人になると予想されています。30年、420ヶ月で35375人の減少です。ただしこの推測は震災前に行われたものになります。420ヶ月で35375人減少するという予測の中、震災によって4ヶ月で2600人減少したこと考えると、人口減はかつての予想よりも大きく加速していることがわかります。

※注1 いしかわ統計指標ランド 石川県の人口と世帯(令和6年1月1日 令和6年5月1日

※注2 国立社会保障・人口問題研究所推計

少子高齢化

人口減少に加えて深刻なのが少子高齢化です。奥能登は日本の中でも特に少子高齢化が進んでいる地域になります。令和5年10月時点のデータ(注3)によれば、老年人口(65歳以上)が珠洲市53.2%、輪島市49.0%、穴水町50.6%、能登町52.6%で、軒並み50%前後まで達している状態です。総務省の人口推計(注4)では、老年人口の全国平均が29%であり、奥能登は突出して高齢化が進んでいることがわかります。

 

少子化については令和5年10月時点のデータ(注3)によれば、年少人口(15歳未満)が珠洲市6.9%、輪島市6.9%、穴水町6.9%、能登町7.0%となっています。総務省の人口推計(注4)では、年少人口の全国平均は11.6%となっています。どの市町も、平均より5ポイント程度低い結果が出ています。

 

次に生産年齢人口(16歳〜64歳)は、令和5年10月時点のデータ(注3)によれば珠洲市39.8%、輪島市44.9%、穴水町42.6%、能登町40.4%です。総務省の人口推計(注4)では、生産年齢人口の全国平均は59.4%であり、年少人口よりも大幅に低く出ています。

 

少子化の具体的な状況として、奥能登の高校の倍率に関してふれてみたいと思います。昨年度、奥能登の公立高校5校の入試倍率(注5)は、輪島高校(定員120人)が0.64倍、飯田高校(定員120人)が0.44倍、穴水高校(定員80人)が0.36倍、門前高校(定員80人)が0.36倍、能登高校(定員80人)の倍率が0.83倍でした。どの高校も定員割れしており、人口5万人ほどの地域で、高校の受験者はおよそ240人ということになります。

 

特に珠洲市の飯田高校は前年度の倍率が0.83倍(注6)であり、奥能登の高校では一番減少幅が大きく、ほぼ半減しています。震災の影響で倍率が減少したとすれば、震災の人口流出が地域の少子化に与える影響は想像以上に大きいものだと思われます。

 

また2023のデータで出生率で見ると、石川県全体が1.34であるのに対し、輪島市が1.45、珠洲市が1.56、穴水町が1.53、能登町が1.61となっています(注7)。率は相対的に高くなっていますが、能登町の出生数を見ると2022年の時点で51人であり(注8)、地元唯一の高校である能登高校の定員80人を大きく割っています。もう少し調べてみると、2014年の時点で出生数は80人を割っているので(注9)、このままいけば、2014年生まれの子どもが高校入学を迎える頃には、全員地元の高校に進学したとしても、80人の定員が埋まらない状況が発生することになります。

 

少子化と教育格差

少子化によって発生するのが、学校の統廃合の問題です。子どもの数が減っていくと、小中高の統廃合が進んでいきます。地域から学校がなくなれば、地域から経済力や活力が失われ、地域の魅力が失われ、さらに少子化が進んでいくという、負のサイクルが発生します。

廃校となった能登町の三波小学校【廃校となった能登町の三波小学校】

正面はシャッターが閉まっている【正面はシャッターが閉まっている】
グラウンドだったと思われる場所【グラウンドだったと思われる場所】
鶏小屋の跡【鶏小屋の跡】

少子化が進むと、教育格差の問題も深刻になっていきます。教育サービスの質は人口に依存しているので、人口が減っていけば公教育の質を下げざるを得ませんし、民間の塾や予備校なども経営が成り立たなくなって地域に存在できなくなります。少子化は教育環境に大きく影響を与えるので、少子化が進めば進むほど、子育て世代にとっては魅力のない場所となり、さらに子どもが減っていくという、同じような負のサイクルが発生します。

高校魅力化プロジェクト

能登町には元々3高校1分校が存在していましたが、少子化によって統廃合が進み、2009には能登高校が町内唯一の高校になりました。このまま少子化が進めば町内から高校が消滅することも考えられます。高校が地域に存在する意義は想像以上に大きく、まず高校がなくなれば子育て世代を呼び込むことが難しくなり、ますます少子化が進みます。

そして高校が存在することによる経済効果は大きく、能登高校がもたらす経済効果は21億円と算定されています(注10)。経済面、人口面からも、高校がなくなることによるダメージは計り知れないものがあります。

 

私が取り組んでいる能登高校魅力化プロジェクトは、このような危機的状況を打破するために生まれたものです。このプロジェクトは、さまざまな観点から高校を魅力化することで、入学者を増やし、存続させることを目的としています。

 

私がメインで担当しているのは、プロジェクト内にある、まちなか鳳雛塾という公営塾の講師です。公営塾とは主に塾、予備校が存在しないような過疎地域に、市町村が設置している塾です。過疎地域では通常、大学進学、特に難関大学を狙うような教育を受けられる環境がない、もしくは少ないため、大学進学を考える層は市町村の外に移住して高校に進学したり、外の塾予備校に通うしかないケースがあります。

公営塾には、難関大学進学にも対応できる教育環境を過疎地域に整えることで、教育格差を是正し、子育て世代の移住者に対するアピールすることや、地元高校への進学者を増やして高校を存続させる狙いがあります。

執筆者


 

中村 俊介


1984年生まれ長崎県長崎市出身 石川県鳳珠郡能登町在住
広島大学理学部物理科学科卒業
広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻博士課程前期修了
複数の塾を経てPMD医学部専門予備校に入社
その後能登高校魅力化プロジェクトに参加
現在はまちなか鳳雛塾に塾コーディーネーターとして勤務

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