【地域医療を考える】石川県奥能登地方の現状#5 能登町出身の医学部生の思い
はじめに
第5回は石川県能登町にあるまちなか鳳雛塾の卒塾生Aさん(大学4年生)にインタビューした内容をお伝えします。Aさんは能登町出身で、能登高校から1年の浪人期間を経て、栃木県の自治医科大学医学部に進学しています。能登高校は能登町に存在する唯一の高校で、設立されたのは2009年になります。15年ほどの高校の歴史の中で、Aさんは医学部医学科に進学した唯一の生徒です。また、ソフトテニスで全国大会に出場した経験もあり、文武両道という言葉がふさわしい学生です。
まちなか鳳雛塾
https://notoko-miryokuka.com/project/project-04/
自治医科大学医学部
https://www.jichi.ac.jp/medicine/
能登高校
https://www.ishikawa-c.ed.jp/~notoxh/
自治医科大学はへき地の医療を確保するため、1972年に各都道府県が共同で設立した私立大学になります。定員は各都道府県から2〜3人になっており、非常に狭き門です。令和5年の入学倍率はおよそ15倍となっています(注1)。学費は全額貸与で、卒業後に指定の病院で働くなど、一定の条件を満たすことで返済が免除になるシステムになっています。
今回の取材では、地方の公立高校から狭き門である医学部に合格するための勉強の方法や、自治医科大学での大学生活、そして能登町に対する思いなどを語ってもらいました。
【自治医科大学の春の様子】
【自治医科大学の秋の様子】
インタビュー
医学部受験の動機と受験校
ーーまずは医学部医学科を目指した理由をお願いします。都市部の中高一貫校のように、医学部を目指す生徒が多い環境ではなかったと思いますが、どのような経緯があったのでしょうか。
Aさん:能登町の静かな雰囲気や、歩いていて自然と声をかけられるような繋がりが好きだったので、地元で人と直接関わりながら地元のために仕事がしたいと昔から思っていました。ただそのためにはどんな職業につけば良いのか、具体的には見えていなかったのですが、高校1年生の時に学校の担任の先生から、そういう仕事がしたいなら医師という道があることを教えてもらい、医学部を目指すようになりました。
ーー学校の先生の影響が大きかったということですね。医学部受験も大学は数多くありますが、受験校はどのように選択しましたか?
Aさん:最初から能登に戻ってくることを考えていたため、現役の時は地元の金沢大学の地域枠を考えていました。1浪時には国公立大学の一般受験と自治医科大学が選択肢に入っていましたが、結果的には自治医科大学に合格しました。
医学部受験の勉強方法について
ーーAさんは地方の一般的な公立高校から医学部に合格したわけですが、Aさんが考える医学部合格の秘訣みたいなものはありますか?
Aさん:医学部に合格するためには、勉強習慣を早くから確立しておくことが重要です。私は中学校の時からまちなか鳳雛塾に通っていて、定期的に勉強する習慣をその時から少しずつ身につけていました。勉強習慣を早く確立して、受験に重要な基礎力をしっかりと醸成することが、合格につながると思います。
もうひとつ重要なことは、大学に合わせた対策を実施することです。私が受験した自治医科大学の試験は、基礎的な問題を素早く大量に解くタイプの試験だったので、そのための対策をしっかりと行いました。
元々よく本を読んでいて、読解力には自信があったので、国語と英語は得意でした。逆に理科数学が苦手でした。理系科目の部分は塾のサポートが手厚くて、質問もしやすかったので助かりました。学校にも個別でサポートしてもらっていたので、周囲が応援してくれたことは非常に大きかったと感じます。
自治医科大学について
ーー自治医科大学はへき地医療を担うために設立された大学ですが、カリキュラムにもそのようなへき地医療に関するものも含まれているんですか?
Aさん:地域で働いている先輩方が、講義で実際の体験を話してくれることがあります。また、私は毎年夏に舳倉島(輪島市の離島)に行って地域医療の話を伺っています。教授陣も自治医科大学出身の方が多いです。
ーー他に自治医科大学ならではの特徴はありますか?
Aさん:多くの大学では4年生のときにCBT試験を実施すると聞きますが、自治医科大学ではCBT試験を3年次に実施しています。その分、病院実習が他の大学よりも長くなるという特徴があります。
ーー自治医科大学は国試の合格率も非常に高いですよね。2024年の医師国家試験の合格率は100%でした(注2)。自治医科大学は各都道府県から少数の学生が来ているので、一人でも不合格になればその都道府県にとっては非常に痛手になりそうです。そういう事情もあって国試対策には力を入れているのでしょうが、自治医科大学ではどのような国試対策のカリキュラムが組まれているのでしょうか。
Aさん:自治医科大学には医学教育センターというものが設置されていて、独自の国試の対策が進められています。学校の教材をやりこむことが国試やCBTの合格に繋がるようです(注3)。あとは普段の定期テストから、国試に合格するような問題作りが意識されていると聞きました。
令和6年能登半島地震について
ーー令和6年能登半島地震の際は能登町に帰省中だったと聞きました。大変なことが多かったと思いますが、震災を経て意識の変化はありましたか?
Aさん:地震が起きてからは、しばらく地域の避難所で過ごしていました。私はまだ学生なので、医療という面で出来ることは少なかったのですが、こういう場面では正確な知識が重要なのだと思わされました。そして、もし自分が医師であればもっと出来ることがあったはずなのに、という思いにもなりました。地域のために働きたいという思いは、昔からずっとあったのですが、震災の経験を経て、より地元の役に立てる医師になりたい気持ちは強くなりました。
ーー貴重なお話をありがとうございました。町内でも貴重な医学部受験生ということで、昔から周囲の期待は大きかったはずですが、その期待にしっかりと応えてきた、そして今も応え続けていることがよく伝わってきました。今後も期待される立場は続くのでしょう。塾一同、微力ながら応援していきたいと思います。
Aさん:ありがとうございました。
インタビュアー追記(勉強方法について)
Aさんには地方の公立高校から医学部に合格する方法を語ってもらいました。学習習慣を早くから身につける、基礎をしっかりと醸成する、という方法は、中学受験組と戦う上では非常に重要なことです。
個人的な見解を述べると、追加のポイントとして、理科(物理化学生物)の強化を付け加えたいと思います。理科は公立高校では基本的に遅れる科目になりやすいのですが、しっかり学習すると非常に点数が伸びやすく、また安定する科目でもあります。
数学で勝負できるようになる、高得点を安定させるための時間コストは他の科目よりも相当高いので、理科(得点が安定するという意味では英語も)をしっかりと学習すると、医学部受験を総合力で戦えるようになります。
志望校の配点次第にはなりますが、理科の強化はもっと意識されて良いポイントだと感じています。
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