【2021大学入学共通テスト】PMD医学部専門予備校のプロ講師である松尾秀樹先生が「化学」を講評です。
共通テスト化学全体の概要
化学は試験制度移行にあたって行われた試行調査で示されていた通り、問題文や図・表・グラフから必要な情報を読み取る問題や、正解を導く過程が複雑な思考力を要する問題が出題された。また選択問題がなくなってすべての大問が必須問題となったのも方針通りである。ここ数年のセンター試験では共通テストを意識した複雑なグラフを読み取るような問題が少しずつ増えていたため、他教科と比べてもなだらかに移行されたと思われる。
センター試験では高分子化合物の大問は配点が低かったが、大問ごとの配点の偏りが小さくなった試行調査を経て、共通テストでは5つの大問が全て同じ配点となった。相対的に高分子化合物や天然有機化合物の比率が高まり、要求される知識もより高度になった。
平均点は昨年に比べ下がり得点調整も行われたが、センター試験でも近年は低く推移していたためこれが標準の難易度だと思って学習していくべきだろう。思考力を要する問題に時間を掛けすぎないよう、時間配分・管理は非常に重要である。
センター試験に比べ私立入試の形式に近づいたため、私立大の入試対策が共通テストの対策にも通じると思われる。また、私立のみ受験する場合でも特別な対策をすることなく共通テスト利用の受験がしやすくなるだろう。
INDEX
共通テスト化学|第1問の考察
物質の構成・物質の状態より金属元素、結晶構造、物質の溶解や分子間力、気液平衡について出題された。各桁の数値をマークする問題は化学では新しく、正誤組み合わせ問題は久しぶりの形式だが、問われている内容や難易度は概ね近年のセンター試験のそれに近い。
問1 | 選択問題 | 2族元素のうちBe・Mgとアルカリ土類金属との相違点は正確に把握しておきたい。BaSO4がX線造影剤として用いられていることを思い出せるか。 |
問2 | 計算問題 | 体心立方格子の密度からアボガドロ定数を表す式を求めるセンター試験時代からの典型的な問題。 |
問3 | 正誤問題 | 3つの記述について正誤の組み合わせを選ぶ問題で、化学では2007年以来の形式である。「当てはまる選択肢をすべてマークする問題」が技術上の問題から見送られたため、今後も出題される可能性が高い。 |
問4 | グラフ問題 | aは蒸気圧曲線から温度を読み取って各桁の数値をマークする新傾向の問題。bは容積一定の下で状態変化を伴う物質の圧力の温度変化を選択する問題であり、グラフの概略図がイメージできれば100℃での圧力を求めることで選択できる。 |
共通テスト化学|第2問の考察
物質の状態・物質の変化より光化学反応、電池、水の状態とエネルギーについて出題された。光化学反応や空気亜鉛電池など題材が変わったものが多かった。日常における実用例は今後取り扱われることが多くなると思われるし、思考力を問われる問題に通用するような知識を身に付けるために普段から積極的に取り入れていきたい。
問1 | 正誤問題 | 光合成は光エネルギーを吸収して無機物から有機物を生じる吸熱反応である。 |
問2 | 計算問題 | 電池の質量変化から電流を求める問題。酸化亜鉛電池に限らず、電池全体の反応式と電子と各物質との量的関係を考えられるようにしておきたい。 |
問3 | aでは水の状態図を思い浮かべられるか。これに限らず日頃からグラフに慣れておきたい。bでは水素結合が2分子で共有されていることに気を付ける。cではエネルギー図を活用しながら計算する。 |
共通テスト化学|第3問の考察
物質の変化・無機物質より電気分解、金属元素、鉄(Ⅲ)の錯イオンの光化学反応について出題された。問題文に与えられた反応式から量的関係を考えていく問3は思考力・判断力を要する問題で難易度が高い。
問1 | 正誤問題 | NaClの溶融塩電解に関する正誤問題。各極の反応、また全体の反応式を考え量的関係を確認する。 |
問2 | 選択問題 | 与えられた情報から金属元素を推定する問題。両性元素の周期表における位置関係は覚えておきたい。また、鉛の塩の溶解性は特徴的で頻出なのでいつでも引き出せるようにしたい。 |
問3 | 実験問題 | 教科書には記載のない反応だが、本文をしっかり読んで理解したい。aは鉄イオンの各種検出が整理できていれば問題ない。bはシュウ酸イオンが還元剤としてはたらいていることが分かれば半反応式が書ける。cは反応前後のシュウ酸イオンの物質量変化から求める。 |
共通テスト化学|第4問の考察
有機化合物・高分子化合物より芳香族化合物、油脂、アルコール、高分子化合物、ポリペプチドについて出題された。問5を除けばセンター試験時代と内容や難易度に大きな差はない。
問1 | 正誤問題 | 芳香族炭化水素の反応に関する正誤問題。いずれも代表的な反応である。触媒や条件も含めしっかり覚えておきたい。 |
問2 | 正誤問題 | 油脂に関する正誤問題。油脂は知識が不十分な人が多いが、けん化価やヨウ素価の定義や意味も医学部受験生ならば覚えておきたい。 |
問3 | アルコールの反応に関する問題。aではアルコールの酸化により生じる物質について、bでは脱水により生じる異性体の数を考える。アルコールの構造決定は問題も豊富にあるため十分に練習しておこう。 | |
問4 | 正誤問題 | 高分子化合物に関する正誤問題。重合体・単量体の構造と製法が把握できていれば正解できる。 |
問5 | 計算問題 | ポリペプチド鎖のらせん構造の長さを求める問題。DNAのらせん構造の長さを求める問題が解ければ同様に解けるだろう。 |
共通テスト化学|第5問の考察
天然有機化合物・物質の変化と平衡の総合問題が出題された。平衡を考えるために糖の知識が必要であり、この問題に取り掛かるまでの時間配分がうまくいっていなかった場合は非常に理解しにくい問題だったと思われる。方眼紙も用意されているが、模試などの予想問題を十分に対策していればグラフを書かずに解くこともできる。思考力を要する問題の演習量によって要する時間が大きく変わるだろう。
問1 | 計算問題 | グルコースの異性化の平衡に関する問題。反応によりα型・β型の物質量の和は変化しない。十分に対策している人ならば表1にβ型の物質量を書き加え、方眼紙を使わずに解くこともできるだろう。またcでは実験Ⅰの平衡時の物質量を2倍にしても正解が導ける。 |
問2 | グラフ問題 | メタノールと反応するとヘミアセタール構造が失われ、異性化は起こらなくなる。糖についてのしっかりとした知識が必要な問題。 |
問3 | 反応は教科書に記載されているものではないが、問題文をしっかり把握したい。bでは炭素原子の物質を合わせればよい。 |
令和3年度 共通テスト(1月16日・17日)の正解
令和3年度 共通テスト(1月30日・31日)の正解
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